最高法務責任者が投資家の懸念を打ち消す
バリーズ・コーポレーションのエグゼクティブ・バイス・プレジデント兼最高法務顧問のキム・バーカー氏は2026年8月20日、NBC5シカゴの取材に応じ、「バリーズはカジノ・リゾートの統合施設を予定通り完成させる強固な立場にある。それは疑いの余地がない。資金は確保されており、予定通りに完成させる」と明言した。
この発言は、同週にバリーズ社が投資家向けの四半期報告書で「ゴーイング・コンサーン(Going Concern)」警告——企業が債務を現金で賄えない可能性があるという会計上の重大な警告——を発したことへの市場の懸念を打ち消すものだ。
フィッチ・レーティングスの厳しい評価
信用格付け機関フィッチ・レーティングスはバリーズの信用見通しについて「ネガティブ」と評価しており、その理由として「例外的に高いレバレッジ(負債比率)・近い将来に見込まれるキャッシュフローの赤字・開発資金の不確実性」を挙げている。
構造的な問題——なぜ財務危機が起きているのか
「収益が入る前に大金が出ていく」構造
バーカー氏は財務上の課題をこう説明した。「この規模・範囲の大型プロジェクトは、ドアが開いて収益が入ってくる前に、大量の資金を投じる必要がある」。つまりシカゴとニューヨークという2つの大型カジノ開発が同時進行しているバリーズは、現時点では投資フェーズにあり、この両施設が開業すれば十分な収益で債務を返済できるという論理だ。
仮設カジノの低迷という不安材料
しかし市民連盟(Civic Federation)のジョー・ファーガソン会長は楽観論に疑問を呈した。「ゴーイング・コンサーン警告は基本的に助けを求める声だ。彼らは『自分たちの財務状況とこのプロジェクトを抱えた上で、単独では賄いきれない』と言っている」と指摘した。
さらにファーガソン氏は、バリーズが旧メディナ・テンプルに設置した仮設カジノが赤字経営であり、同社自身が設定した収益予測を下回っていることを挙げ、「バリーズがシカゴという市場、4年前にカジノを承認して以来ギャンブルで飽和状態になったこの地域のビジネスを、十分に理解していたかどうかという疑問を提起している」と述べた。
VGT問題と工事停止——前回記事からの続き
カジノ総研が先日報じた経緯との連続性
カジノ総研では先日(2026年8月13日付)、バリーズがシカゴ市によるビデオギャンブル端末(VGT)合法化をホスト協定違反として非ゲーミング施設の工事を停止したという報道を詳しく解説した。
今回の記事においてもVGT問題が続いており、バリーズは市の決定がカジノ収益に悪影響を及ぼすと主張している。VGTを合法化した地域でカジノ収益が落ちたというイリノイ州内の事例を根拠としている。これを受けてシカゴ市議会では9月初旬に公聴会を開く準備が進んでいる。
一方でシビック・フェデレーションはVGTがカジノに与える経済的影響は軽微だという独自の調査を公表する予定だとファーガソン氏は述べており、バリーズの主張への反論を準備している。
カジノ総研の見解——「ゴーイング・コンサーン」と「予定通り開業」の両立を読み解く
「ゴーイング・コンサーン」警告の本当の意味
「ゴーイング・コンサーン」とは会計監査上の専門用語で、企業が今後12ヶ月以内に事業継続が困難になる相当の疑義があると監査人が判断した場合に付される注記だ。これは「倒産が確実」という宣告ではなく、「このまま対処しなければ深刻な状況になりうる」という警告シグナルだ。
バリーズの場合、この警告が示す問題の核心はタイミングだ。シカゴとニューヨークの両カジノが開業すれば収益が入るというビジネスロジック自体は成立しうるが、問題は「開業するまでの間、現金が尽きないか」という時間軸の問題だ。
カジノ総研として見ると、バーカー氏の「資金は確保されている」という断言と、フィッチが指摘する「開発資金の不確実性」という評価の間には大きな認識の差がある。この差が市場の懸念の核心だ。
仮設カジノの低迷が示す市場読みの問題
カジノ総研が特に重視するのは、旧メディナ・テンプルの仮設カジノが自社予測を下回っているという事実だ。
IR開発においてフィジビリティスタディ(事業可能性調査)の精度は極めて重要だ。大型カジノプロジェクトが「計画通りにいかない」最大の理由の多くは、当初の需要予測の甘さから生まれる。バリーズが仮設施設の段階で自社収益予測を下回っているということは、この市場の需要特性の把握に問題があった可能性を示唆している。
ファーガソン氏が指摘した「ギャンブルで飽和状態になった市場」という表現は重要だ。2022年のカジノ承認以降、シカゴ周辺では州内各地にカジノが次々と開設・拡張されており、パイの奪い合いが激化している。VGTの合法化もその延長線上にある。バリーズが直面しているのは自社の財務問題だけではなく、市場環境そのものの変化という構造的な問題でもある。
「工事を止めて交渉カードにする」戦略のリスク
先日の記事でも指摘したが、バリーズは非ゲーミング施設の工事停止をVGT問題への対抗手段として使っている。今回の財務状況に関する報道と合わせて見ると、この工事停止戦略は別の解釈も可能だ。
資金繰りが厳しい状況で、完成が義務付けられていないホテル・エンターテインメント施設の工事を止めることは、キャッシュバーンを抑制する財務的な合理性を持つ。VGT問題を「正当な理由」として建設ペースを落とせるなら、財務的に苦しいバリーズにとって都合の良いタイミングだったとも読める。カジノ総研としてこの解釈の正否を断定することは控えるが、複数の観点を持って情報を読む重要性を強調したい。
ガロップ社調査——米国でギャンブル参加率が20年間で20%減少
この一連の問題の背景として、新たなガロップ社の調査が注目されている。米国におけるギャンブルへの参加率が過去20年間で約20%減少していることを示す調査結果だ。
この数字はカジノ産業全体にとって重大なマクロトレンドを示している。オンラインギャンブルの拡大が「ギャンブル全体のパイを拡大している」のではなく、既存の陸上カジノから需要を奪っているという構造的な変化が起きている可能性がある。
スカイシティ(ニュージーランド)の人員削減、デンマークの陸上カジノのGGR低迷、そしてバリーズの財務困難は、世界各地で似たようなシグナルが出ていることを示している。「大型IR建設への投資」という判断が、需要の構造的な変化と時間軸でずれてしまうリスクは、日本のIR開発においても真剣に検討すべき論点だ。
日本のIR開発への示唆——「開業後の収益予測」の精度という問題
大阪IRはMGMリゾーツとオリックスが事業主体として建設を進めている。バリーズのシカゴ開発と日本の大阪IRを単純に比較することは適切ではないが、類似した教訓を引き出すことはできる。
第一に、開業前フェーズの資金調達と財務安定性は、開業後の需要予測と同等以上に重要だ。第二に、フィジビリティスタディの需要予測が楽観的な前提に立っている場合、仮設施設や類似市場でのパフォーマンスという現実のデータで検証する機会を設けることが不可欠だ。第三に、周辺地域のギャンブル環境の変化(VGTやオンラインカジノの台頭)という外部要因をどう財務計画に織り込むかは、大型IR事業者が設計段階から取り組むべき問題だ。
まとめ——「予定通り開業」の宣言を支える基盤は十分か
バリーズのキム・バーカー氏が「予定通り2027年初頭に開業する」と明言した一方で、ゴーイング・コンサーン警告・フィッチのネガティブ評価・仮設カジノの低迷・工事停止という4つの逆風が現実として存在する。
「大型プロジェクトは開業前に資金が出ていく」というバーカー氏の説明は正確だ。しかしその資金が実際に確保されているかどうかは、今後の四半期報告や市議会の公聴会を通じてより明確になっていく。
カジノ総研はシカゴ・バリーズ問題の続報を引き続き追跡し、日本のIR政策への示唆を発信していく。
本記事の元情報はNBC Chicago(Paris Schutz記者、2026年8月20日付)に基づいています。カジノ総研が2026年8月13日付で報じた関連記事の続報として制作しました。カジノ総研編集部が独自の分析と見解を加えて制作しています。





