事実の概要——何が発表されたか
ライセンス申請窓口の再開と締め切り
2026年8月4日(月)、デンマークのギャンブル規制当局「スピレミュンディヘーデン(Spillemyndigheden)」は、陸上(リアル)カジノのライセンス申請窓口を正式に再開したと発表した。今回の受付は、既存の10年ライセンスを更新する事業者と、市場への新規参入を希望する事業者の双方を対象としており、2026年内では初めての正式な公募機会となる。すべての申請書類と添付資料の提出期限は2026年11月3日とされている。
今回の公募は、2025年9月22日に施行されたギャンブル統合法(Consolidated Act No 1182)に基づくものであり、同法によりスピレミュンディヘーデンは最長10年のカジノ営業許可を付与する権限を持つことが明確化された。
申請プロセスと審査基準
申請を受理したスピレミュンディヘーデンは、関係する自治体・警察署長・租税省・産業省との協議プロセスを経て審査を行う。デンマーク海事局も必要に応じて協議対象となる。事業者の審査基準としては、財務的健全性・業界での実績・運営コストを賄う十分な流動性・会社の所有構造と経営陣に関する情報の開示が求められる。地理的条件と対象顧客層の提案も評価対象に含まれる。
現在の市場規模——7か所・10年ライセンス制
現在デンマークで活動している陸上カジノのライセンスは7件で、コペンハーゲン南部・コペンハーゲン西部・ヘルシンゲル・オーデンセ・ベイレ・オーフス・オールボーに施設が存在する。今回のライセンス再公募は、市場の拡大または施設の所有構造の変化につながる可能性がある。
デンマーク・ギャンブル市場の現状——数字が語る構造的課題
陸上カジノのGGR、2025年に5.6%減
スピレミュンディヘーデンが公表した2025年市場報告書(Spilmarkedet i tal 2025)によれば、陸上カジノのGGRは3億7,800万デンマーク・クローネ(約5,826万米ドル、約90億円)で、2025年の全ギャンブル市場のわずか3%に過ぎない。2024年比では5.6%の減少を記録した。
オンラインカジノが市場の38%を独占
対照的にオンラインカジノのGGRは43億1,000万クローネ(市場の38%)に達し、前年比12.1%増(4億6,500万クローネ増)を記録した。2012年との比較では139%増と2倍以上の成長を遂げており、デジタルシフトの加速が明確に示されている。また2025年には新たに自由化された陸上型ビンゴが初登場し、GGRは3,000万クローネ(市場シェア1%未満)を記録した。
カジノ総研の見解——この動きをどう読むか
GGR低迷下での「攻め」の規制——その戦略的意図
陸上カジノのGGRが前年比5.6%落ち込んでいる状況で、なぜデンマーク当局はライセンス申請の窓口を再開したのか。一見すると矛盾しているように見えるこの動きには、少なくとも三つの政策的意図が透けて見える。
第一に、現行7施設の地理的カバレッジを見直して新たな需要を掘り起こすという戦略だ。コペンハーゲンに2か所のライセンスが集中している現状を考えると、他の都市圏や観光地への施設分散が検討対象となっている可能性がある。
第二に、既存事業者の競争意識を高めることによるサービス品質の底上げだ。更新審査と新規申請を同一の窓口で受け付けることで、既存事業者が「ライセンスは自動更新される」という安穏とした姿勢を持てない仕組みを作っている。
第三に、陸上カジノの収益減少が施設・サービス・立地の時代遅れに起因するという問題意識の表れとも読める。市場に新規参入の血を入れることで、業態そのものの刷新を促している。
デジタル・シフトは不可逆か——陸上カジノの存在意義を問い直す時代
デンマークのデータが示すデジタル・シフトは同国特有の現象ではない。ヨーロッパ全体、そしてアジアでも、オンラインギャンブルの拡大と陸上カジノの相対的縮小は共通したトレンドだ。
ただし「陸上カジノが不要になっている」と結論づけるのは早計だろう。オンラインカジノにはない陸上カジノの固有の価値——社交的な場としての機能・観光・ホスピタリティ産業との統合・ライブエンターテインメントとの複合体験——はデジタル上では代替が難しい。問題は、その価値をいかに現代の消費者ニーズに合わせてリデザインするかだ。デンマークの今回の公募は事業者に対し、「陸上カジノとはどうあるべきか」という問いへの新しい答えを持ってくることを暗黙のうちに求めている。
日本のIR開発への示唆——「ライセンスの競争的更新」という設計思想
カジノ総研として特に注目するのは、デンマークが採用した「10年ライセンスの競争的更新」という制度設計だ。一度取得したライセンスが自動的に更新されるのではなく、更新時に改めて評価審査を受ける仕組みにより、事業者は常に一定水準以上のパフォーマンスを維持する動機を持ち続ける。
日本のIR整備法に基づく大阪IRをはじめとするカジノ施設のライセンス設計においても、「更新時の競争的再評価」という要素をどう組み込むかは重要な制度設計上の論点だ。単一の長期ライセンスで参入障壁を高める設計は事業者の投資回収を容易にする一方、長期的なサービス品質維持のインセンティブが弱まるリスクがある。デンマークの今回の取り組みはその問いへの一つの実践的な回答として参照できる事例だ。
審査基準の「地理的条件」と「対象顧客層」——立地戦略の重要性
もうひとつ注目すべきは、審査基準に「地理的条件」と「対象顧客層の提案」が明示的に含まれている点だ。これは単純な「誰が運営するか」ではなく「どこで誰のために運営するか」を問う設計であり、カジノを観光政策・地域振興・社会的影響の観点から総合的に評価しようとする姿勢を示している。
カジノ総研は、日本においても同様の視点——地理的な需要分析・ターゲット顧客層の明確化・地域社会との共生——をIR開発の評価指標として組み込むべきだと考える。
まとめ
デンマークのライセンス再公募は、陸上カジノ産業が抱える構造的課題を直視した上で、競争と刷新によって打開策を模索しようとする規制当局の積極的な姿勢を示している。GGRの低迷を「業界の衰退」と切り捨てるのではなく、制度的なリデザインによって市場の活力を回復させようとするアプローチは参考に値する。
カジノ総研は今後も北欧・ヨーロッパの規制動向を継続的に追跡し、日本のIR開発の文脈で有益な示唆を提供していく。
本記事の元情報はiGaming Business(Kathryn Evans記者、2026年8月3日付)およびスピレミュンディヘーデンの公式発表に基づいています。カジノ総研編集部が独自の分析と見解を加えて制作しました。
執筆者について
佐藤 誠
佐藤 誠は、世界および日本のカジノ産業、統合型リゾート(IR)、ゲーミングテクノロジー、規制動向に関する調査・分析を専門とするリサーチャーです。カジノ市場の成長性、各国の法規制、プレイヤー動向、業界ニュースを客観的なデータに基づいて分かりやすく解説し、初心者から業界関係者まで信頼できる情報を提供しています。
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