発言の背景——マージン圧縮と新戦略の問いに答える
Q2決算説明会でのCEO発言
MGMチャイナのCEOに2025年12月に就任したケネス・馮(Kenneth Feng)は、2026年8月のMGMグループQ2決算説明会において、マカオ事業の新しいプロモーション・再投資戦略についての質問に答えた。この発言は、マカオ事業のEBITDAマージンが前年同期の27.1%から23.3%へと約4ポイント圧縮されたという業績数字を受けたものだ。 gamblingnews
マージンの低下は投資家・アナリストの注目を集めており、馮CEOはこの状況をどう説明し、今後の展望をどう語るかが問われた。
「プロモーション以上の総合パッケージ」という戦略的メッセージ
馮CEOはマカオが引き続き競争の激しい市場であることを認めながらも、MGMはプレミアム需要に応える適切なサービスを提供し続けられると自信を示した。同氏は会社のアプローチについて、プロモーション再投資だけに依存するのではなく、製品・サービス・イノベーション・プロモーションを組み合わせた総合的なパッケージを提供することに焦点を当てていると説明した。 gamblingnews
これは単純に「ボーナスやリベートを増やして客を呼ぶ」という旧来型のプロモーション競争から距離を置き、顧客体験の質そのものを競争優位の源泉とする方向性を示している。
具体的な施設投資——MGMコタイとMGMマカオの改装計画
スイートルーム改装と高額ゲーミングスペースの拡張
馮CEOはQ2期間中にMGMマカオの姉妹リゾートであるMGMコタイでスイートルームの改装とプレミアムゲーミングスペースの拡張を実施したことを紹介し、これらの取り組みがプレミアム顧客から好評を得たと述べた。また今後の計画として、MGMマカオでは100スイートの改装プログラムを継続する方針を明らかにした。 gamblingnews
より広い戦略的方向性として、同CEOはゲームテーブル・スロットマシン・カジノフロアの1平方フィートあたりの収益を最大化することに注力していると語った。単なる再投資額の拡大ではなく、既存資産の収益効率を高めるアプローチだ。 gamblingnews
FIFAワールドカップの影響と回復——「一時的な需要シフト」とその後
W杯期間中の来客減少と7月以降の急回復
馮CEOは2026年FIFAワールドカップがマカオ事業に与えた影響にも言及した。W杯期間中、一部のプレミアムプレイヤーが可処分支出をカジノゲーミングからサッカー観戦・関連活動に振り向けたため、プレミアムゲーミングの売上が減少した。しかし馮CEOは、7月第2週以降、来客数とビジネス量が大幅に改善しており、回復の勢いはW杯終了前であるにもかかわらず第1四半期の水準を上回るほどになっていると述べた。 gamblingnews
この回復についてFeng氏は、大型スポーツイベントが続いた期間の反動需要によるものと分析した。また夏季に予定されているイベントやコンサートが需要をさらに後押しすると見込んでおり、マカオの強い夏季シーズンに対して楽観的な見方を示した。 gamblingnews
カジノ総研の見解——この発言が示すもの
マージン圧縮の読み方——「投資中」か「競争敗退」か
今回の最大の論点は、マージンが23.3%へと圧縮された事実をどう解釈するかだ。馮CEOの発言はこれを「新戦略への移行期における意図的な投資」として位置づけているが、市場はそれをそのまま受け入れるかどうかは別問題だ。
マカオのカジノ市場では、競合他社との集客競争においてプロモーション費用(リベート・コンプ・無料宿泊等)の水準が実質的な価格競争の代替機能を果たしてきた経緯がある。MGMが「プロモーション以上の総合パッケージ」を標榜する一方で、競合他社がプロモーション強化路線を続けた場合、顧客——特に確率計算に長けたハイローラー層——はより有利な条件を提示する施設に移動する可能性がある。馮CEOの自信が戦略的な確信に基づくものか、それとも現状維持を正当化する語りに過ぎないかは、今後数四半期の数字が証明することになる。
W杯効果の読み解き——「一時的需要シフト」論の妥当性
馮CEOはW杯期間中の落ち込みを「一時的な需要シフト」として説明し、7月以降の回復を持ち出した。この説明は確かに一定の説得力を持つ。
しかしカジノ総研として留意すべき点は、「W杯期間は需要が戻ってくる」という前提が今後も成立し続けるとは限らないということだ。スポーツベッティングの普及、ライブイベントや旅行等の可処分支出先の多様化が進む中で、カジノゲーミングが「他に使うものがなければ使う」から「他のどの娯楽よりも魅力的だから選ぶ」へと進化できるかどうかが、マカオの長期的な競争力の核心にある。
施設投資の方向性——「収益/面積」最大化という経営指標の意義
馮CEOが強調した「ゲームテーブル・スロット・フロア面積あたりの収益最大化」という指標は、単純なGGR(粗利)の拡大とは異なる経営の成熟度を示している。
特にマカオのように免許枠が限定されており、新規参入者が来ることなく現在の6社体制が固定されている市場では、パイの奪い合いだけでなく、既存資産の効率的運用が生き残りの鍵になる。MGMの100スイート改装プログラムやプレミアムゲーミングスペースの拡充は、ハイローラー・プレミアムマス(PMASS)顧客の体験品質を高め、より高い単価でのプレイを促すという戦略の現れだ。
日本のIR開発への示唆——「プロモーション依存」からの脱却
日本で2030年代の開業を目指すIRカジノにとっても、今回のMGMチャイナの事例は示唆に富む。特に「プロモーション・リベートでの集客競争に依存しない」という方向性は、日本のIR設計に直接関わる。
日本のカジノ規制では、特定のプロモーション形態や顧客への利益提供方法に制約が課される見込みであり、マカオ流の積極的リベート競争はそのままでは適用できない。つまり日本のIRは設計段階から「製品・サービス・体験の総合価値」で勝負する構造を持たざるを得ない。馮CEOが「プロモーション以上の総合パッケージ」と呼ぶものを、どう日本市場の文脈で具体化するかは、IR事業者が今から考え始めるべき問いだ。
まとめ
MGMチャイナの馮CEOによるQ2決算説明会での発言は、マカオ市場の競争環境の変化と、MGM自身の戦略的方向転換の両方を映し出している。マージン圧縮という足元の数字と、「総合価値での差別化」という長期戦略のギャップをどう埋めるか。その答えは今後数四半期の業績数字の中に現れてくる。
カジノ総研は今後もマカオ市場の動向と日本のIR開発との接点を継続的に分析・発信していく。
本記事の元情報はGamblingNews(Stefan Velikov記者、2026年8月3日付)に基づいています。カジノ総研編集部が独自の分析と見解を加えて制作しました。
執筆者について
佐藤 誠
佐藤 誠は、世界および日本のカジノ産業、統合型リゾート(IR)、ゲーミングテクノロジー、規制動向に関する調査・分析を専門とするリサーチャーです。カジノ市場の成長性、各国の法規制、プレイヤー動向、業界ニュースを客観的なデータに基づいて分かりやすく解説し、初心者から業界関係者まで信頼できる情報を提供しています。
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